anemone

ぼんやりしたり、うっかりしたり。

poor boy

どう思った?フジナミの資料をパラパラとめくりながら監督は低い声で聞いた。ピッチングコーチは監督の目を見ながら「poor boy」と答えた。監督は顔を上げて促す。コーチは続ける。
「あの身長と球速、持っているものは資料通りですね。平均以上です。5月中には球速はもっとあがるでしょう。もう少し早くハンシンが彼を手放してくれていたならと思わずにはいられない。アメリカで早くからコーチングしていれば、とてつもない成績を残せているでしょうに。ハンシンは長期的な展望なく未成年の彼を酷使した。案の定彼は調子を落とした。その後のコーチングのせいで彼はますますバランスを崩していった。A’sはハンシンが彼を2軍に落とした時点で獲得の可能性を探り始めたと聞いてます。まだその時ならば彼の混乱を正しい方向に導くことも容易だったでしょう。今の彼の制球を安定させるのは、一筋縄ではいかない」
監督はため息混じりに頷く。「我々は長所を伸ばすんだ、しかし日本人は細かい欠点を躍起になって無くそうとする。そんなことをしていたら長所もどこかに行ってしまうものなのに。netで彼がマウンドでポトリと球を落としてしまう動画を見たよ。まさにpoor boyだ。日本の奪三振タイトルホルダーなのに。マウンドに立つたび彼は100マイルで相手を倒してしまう恐怖と戦わなければならないんだ。彼と話してどう思った?」
「頭のいい男ですよ。その分これまでの扱われ方からくる混乱も深い。変わりたい、良い方へ向かうための努力をしたいという熱意は十分伝わってきます。素行の点でも彼は所謂日本人だ。ならず者じゃない。」
「困難な道だが、君に期待しているよ。彼を変えてくれ。poor boyからヒーローにな」