anemone

ぼんやりしたり、うっかりしたり。

和のノスタルジー、洋の郷愁

川瀬巴水を見に京都大丸まで行く。「新版画」川瀬巴水まとまって見たことなかった。大正や昭和の初めの街の雰囲気は実際には知らないが、懐かしいと思わされる日本の風景が節度を持った気持ちの良い構図でもって描き出されている。静かに進む舟の竿で水面に波が立ち、映った窓の明かりがちらちらと乱れる暗い堀。ぱっきりと晴れた日に地震の爪跡が残る石造りのアーチ橋を渡っていく親子。降りしきる雨に森の木々の狭間で朧に霞む山寺の大きな屋根。どれも端正で美しい。

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興味深いのは、電柱をわりとガッツリ描くのね。雪の冠をつけた電柱が月明かりの中屋根越しに立ってたり。佐伯祐三も日本時代は電柱を重要モチーフとして目立たせて描いていたし、雰囲気を壊すモノとしては扱われていない。懐かしい日本の風景の中では貴重な縦線だからか。浜辺だと船のマストがあるけど、運河沿いの倉庫街では電柱くらいしかシュッと縦に画面を構成するものは無いしな。で、電柱気になって電柱に注目して最初から作品を見直していった。すると気づいたのだが、描かれているほとんど全ての電柱(何本か描いてあったらメインになる電柱)すべからく右にほんのわずか傾いている。建物を描く線はすっと真っ直ぐに引かれているんだけれど、その中で電柱だけはほんの少し、もうホンマにすこぅし右に傾げられている。これがノスタルジックな雰囲気を壊さない隠し味なのかもしれないな。電柱の無機質さを消して情緒を加味する魔法の角度。

川瀬巴水スティーブ・ジョブズが収集していたことで知られる。この展覧会でも、ジョブズが購入した作品と同じものが数点展示されていた。ジョブズも「詩情あふれるノスタルジックな日本の風景」に心惹かれたのかな。そうだ、あれだ、私がバーニー・フュークスの描く街や人物やスポーツシーンに、体験した事の無い「アメリカの古き良き時代の郷愁」を感じてグッとくるようなモンかしらね。私がジョブズ並みにお金持ちだったらバーニー・フュークスの作品欲しくなっていくつも買うだろうしなー。