1980年代からずっと作るぞ作るぞと言いながら、もう年号も2回変わってやっと今年、大阪市の近代美術館が出来上がった。大阪中之島美術館。バブル期、バブル崩壊、平成不況を乗り越えて、ようやっと。市民や地元画廊からの寄贈が収蔵品群の出発点、作る作る言っている間に長引く不況でサントリーミュージアム天保山が休館、そこで収集していたポスターコレクションもこちらで預かることになってより一層充実した。
朝イチに入場予約して行ったが盛況。しょっぱなの美術館たちあげの礎となった山本發次郎氏や高畠アートコレクション寄贈の作品群のコーナーは人で一杯なのでサクッと飛ばして、次の貸し出し回数の多い海外の有名どころを主に展示したコーナーから攻める。おぉー、これは良いモーリス・ルイスですね!この展覧会は何点か撮影可能なものがあり、このルイスのものも撮影可。題名は実にタイムリーにも「オミクロン」なり。
対峙していると色の川のダイナミズムと流れの緊張で空間がぎゅっと中央に向かって収縮しているよう、目の端にくる絵の外側には膨大なエネルギーがまさに絵に注ぎ込まれんと集まってくるような。でかい画面は伊達じゃない。写真集では味わえない感覚。
同じ部屋にマーク・ロスコとステラ。ステラのブラックペインティングを生でじっくり見る。全然ぺったりしていないのね。筋ごとに色の濃淡があるように見えて、でも黒。その中でも明るいと感じられる細いラインを辿っていくべく視線を動かしていても、辿りきれずにふらふらとあちこちを彷徨い始めてしまう。ただただ黒のラインが画面を埋めているだけなのに、とんでもない奥行きの入り口を覗き込んでいるような不安定な心地がしてくる不思議。
その先のデザインのブロックが1番の目当て。家具やポスターが並ぶ。アアルトの家具はオリジナル。ここら辺のジェネリックがいっぱい出ている家具プロダクトもんのコレクションってどうなんだろうなぁ。リートフェルトのレッドアンドブルーチェアが何脚も。へー、最初は色ついてなかったのね。
壁にはグラフィック作品の名作がズラリ。視野にすんなり収まってくれる囲われた中に美しく配置された画像と文字。お洒落!素敵!9月に東京のたばこと塩の博物館で見た杉浦非水展で1番のお気に入りになった彼の三越百貨店ポスターと再会。いやもうこれ最高!ジャポニズムによって大きく開花したヨーロッパのポスター芸術が一周回って、この上なく上品で豪奢な姿で日本に里帰りした。
すっきりとした線の三越美人の顔を見ていて思い出したのが、ミッシェル・オスロ監督の「ディリリとパリの時間旅行」。大好きなアニメ映画。この映画の中に彼女が登場しても全く違和感ないと思う。
映画は、手足のバレエのような美しい所作と調和のとれた色彩、登場人物の立体表現を抑制しつつ全体の構図は奥行きを感じさせて、ペープサートの舞台を見ているような統一感があった。ベルエポックのパリで活躍した芸術家が沢山出てくる。みなよく特徴を掴んで似ている。サラ・ベルナールを描いたミュシャのポスターも街角に貼ってある。三越のポスターは三越で復刻してくれないかなぁ。額に入れて飾りたい。
さて展覧会のポスター部門には、カッサンドルの「ノルマンディー号」やみんな大好きサヴィニャック、もちろんロートレックやクリムトや黒猫ちゃんや東京オリンピックもあり、ありがとうサントリーさん。
異色なのは近代と現代を扱う美術館なのにアルチンボルドの油彩を持ってること。もともと別の大阪市にあったワイン専門ミュージアムの持ち物だったが不況で閉館、こちらに流れ着いたとのこと。ルネサンス期の油彩がシレっと一番新しい時代のデザインを見せるコーナーに展示してあり全然違和感ないのもすごいなー。アルチンボルドの時間を超越するPOP凄い。
最後まで見てもう一度最初に戻り、音声ガイドを借りていたので該当作品を見る。貧乏性。音声ガイド借りなくても良かったな。 なかなか充実したお披露目展覧会でした!維新が政権を握る前にコレクションを充実させていたってのが鍵か。あと、不況で持ち堪えられなくなった他のミュージアムからの寄託。待てば海路の日和あり。
帰る道すがら突飛なことを考える。オスロ監督に大谷翔平アニメを作ってもらいたいなー。皆よく知る芸術家たちを嫌味なく似せて魅力的に動かせるなら、大谷選手の求道的なところやcuteな部分をこぼさず抽象化してくれそう。マーベルコミックのヒーローのようだ!とか日本のアニメヒーロー!って言われるけれど、アメリカンコミックやジャパンアニメの表現では、彼の魅力は伝わらないと思うのよねー。MLBが作ったアニメCM酷かったもんなー。
何が面白いかって日本やアメリカの中でも野球好きの間では超有名人だけども、地球上で大多数を占める野球に興味ない人らには全く知られてないこと。体格が良く、あっさりした顔立ちの人の良さそうな東洋人の青年。ひょんなことから彼のことを誰も知らない地で窮地に陥った彼を助けてくれた市井の人々を(子どもを?魅力的な女性?魅力的な女性を孫に持つ老人?)、今度は彼が救うことに奮闘するわけですよ。狙ったところに豪速球を投げ込む能力、誰よりも遠いところに球をガンガン打ちこむ能力、驚愕のスピードを持つ脚力。そして問題が活躍によって解決した後、その顛末を日本やアメリカのメディアに話すことでお金が得られるのを教えることで、彼らの金銭的なピンチを救ってあげる。どうよ。いい感じじゃないですか。いかにも俺は野獣だぜやってやるぜなアメリカンヒーローではない、ヘロヘロっとした喋り方の気のいい青年が実は凄い能力を秘めた人。実写が1番だろうけど誰もが知るあのキングオブ棒読みは如何ともしがたいわけで。オスロ監督ならいい具合に生臭さを抜いて芸術性を加味してくれそうかなっていうのが感想かなと思います、なんつって。までも、28才のお顔の曲がり角でおっさん完成ですから、もうこの企画は遅いわなぁ。妄想でニマニマしながら帰る。