音楽評論家のこの発言にびっくりする。ネットやサブスクがない時代はどうやって音楽と出会っていたかの話。
発売日にFM雑誌買って
— 田中宗一郎🖖 (@soichiro_tanaka) 2024年12月1日
めぼしい番組にマーカーで線を引いて
放送時にカセットにひたすら録音😬
学校のクラスメートや後輩、
同じ学年の友達じゃないやつにも
レコード買わせて
それでも手に入れられないレコードは
レコード屋で万引き🤫 https://t.co/qLQLbiHPlM
レコードが死ぬほど欲しくて
— 田中宗一郎🖖 (@soichiro_tanaka) 2024年12月1日
万引きした経験のない同世代の連中は
基本的に信用してません😊
良いのかそれで。良いわけがない。ままならないことばかりで鬱憤が溜まったとてバイクを盗んで走り出してはダメだし、レコード買えないから万引きするってのも、正当化して良いはずがない。他人からの搾取で欲望を叶えてきたかどうかで人を信用するって意味わからんな。反対に、音楽と出会って豊かな人との関係を結んでいく幸福な体験を垣間見せてくれるのが、尊敬するジャマーバンドあにきさんの「僕の知ってる日本のロック」、その中のレコード店での出会い。
もう一人の僕にとっての重要人物が、このサイトでもいろんな機会に書いてきたレコード屋のお姉さんです。彼女は、最初坊主頭の僕らがお店にいくと、何か万引きでもするんちゃうかといぶかしげでしたが、何度もいってロックやフォークが好きなんだとわかると、本音で色々教えてくれる人で。
だいたい、当時のLPレコードは、月のお小遣いではゼッタイ買えません。だから、どうしても聴きたいものがあると、①友達に買わせる ②貯金で買う ③我慢する しか選択が無かった僕らに、このお店の存在は大きかったのです。
新譜で何が出るかは、彼女がよく知ってて、「今度ジェームステイラーのマッド・スライド・スリムが土曜日に入るで。大体4時くらいかな。」とかいってくれるのです。これはつまり、その次の日曜に行ったら聞かせてくれるということなのでした。で、運良く僕しかお客がいないときは、聴きながらいろんな事=この人たちはどんなところから出てきたとか、関連アーティストはだれとか=を話してくれるのです。
ここでは、お客さんを見てるのも面白かった。たいてい僕がかけてもらうのはロック・フォークの新譜やから、大学生くらいまでの人は入ってくると「オ、○の新しいのか?」と言います。で、「こんなんええかぁ?」とか「この人、すきでねー!」とか、お姉さんに話して行きます。小さな店でしたから、そんなコミュニケーションがたくさん生まれることが繁盛のコツなのでしょうけど、このお姉さんは自分の気に入ったバンドをけなされたらモロにいやな顔をして、「もうええから、帰ってよ。」といっていました(笑)。
そしてもうひとつ、かつてレコードは新しい文化・カルチャーを伝える大きなメディアだったということ。それを手に入れるということがその頃の音楽好きの若者にとってどれほど幸福感をもたらすか。レコードを手に入れることは、新しい音楽を我が物にするのみならず、新しい世界を開く扉を開けること。どうしても欲しいから店頭から万引きしてくる?欲望に負けた短絡的な行為を、青春の浪漫のように語ってもらっては困る。自分をアンファンテリブルとみなして酔っているだけだ。とりあえずレコード店に謝ろう。レコード店は搾取して良い腐敗した存在ではなかったでしょう?一枚買うのに店頭で2時間迷って残りのお金が100円になっても、手に入れることができた若者の心躍る気持ちが綴られる。
LPレコードの時代は、ジャケットのアートワークや、クレジットの見易さから、このアルバム1枚に携わった人たちや周辺の文化がなんとなく感じられて、そこからグラフィックデザインに進んだ人も多かったし、ファッションに進んだ人も多かった。つまり、アルバムジャケットは一種の新しい動きを伝える大きなメディアでもあったのです。特に日本のロックの場合は、その仕事を通して出てきた才能がすごく多かったと思います。チャボの奥さんであるおおくぼ ひさこさんは、最も早くから日本のロックを切り取ってきた写真家だし、ミカバンドのジャケットワークを作ったWORKSHOP MU! は、商業デザインに50年代のアメリカンPOPグラフィックを導入した人たちだし、スタイリストという職業もこの辺から先鋭的に出てきたし。
僕が75年に手に入れたビーチボーイズのアルバムは、ファクトリー・シールを開けるとぷーんと輸入盤のにおいがしました。ジャケットにはメンバーがサーフボードをみんなで持っています。で、音も国内発売のレコードより大きいのです。それらすべてのことから、僕等はアメリカのロックを考え、時代を考え、あこがれました。 LPの時代は、こんなにも豊かなメディアでもあったのです。
追記
文章をお借りしたあにきさんにそのことをお知らせしたら、お返事をいただいた。「僕も久しぶりに自分のこの記事を読みました。この気持ちを忘れたらアカンよね。そして、今に至るまで周りのバンドマンで誰もレコード万引きはしていません。レコード屋に借金作ってもね。」
喪中でもクリスマス飾りしていいのかな。