anemone

ぼんやりしたり、うっかりしたり。

海辺のオーバールックホテル

南紀白浜にあるホテル川久へ一泊旅行。建物を見物するのが趣味、一度は行ってみたかった。かつては一見さんは宿泊できないホテルで有名、経営破綻を経た現在は誰でも泊まれる。西洋風のロマンティックなお城と言うよりも、ビザンティン風な部分あり、イスラム風や中華風であったり、宴会場の天井画はアバンギャルドな絵柄の磨き出し絵だったり、ロビー天井はギネスに載るほど金箔貼っちゃったりと、ありとあらゆるところが様々な様式の何かしらの装飾で飾られているごっつい建物。総工費400億円。取捨選択の放棄。トッピング全部乗せ。

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スマートでセンスが良いとは思えない、いろんな要素が詰め込まれ過ぎた空間ではあるけれど、間近で見たら最高峰の技量と素材が圧倒的な熱量でもってこちらに迫ってくる。まさに魔窟、異世界。もうこのような金に糸目をつけない建物は創出できないだろうなぁ。

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悪の枢機卿や御伽噺の邪悪な女王が根城にしている魔窟感満載のバルコニー風の部分あり。ここからマントを風に靡かせながら世を睥睨していそうだ。列柱が飾る空間だが、一見鳥居にも見えてしまうという不思議。


そして今回たまたまだが、ホテル全館を使ってのアートイベントが開催されていた。

ホテルの館内意匠とコラボする形で6人の作家によるコンテンポラリーアートが展開されている。

わざわざこのアート展を見にきた宿泊客はいなかったような。夕食後に作品を見て回った時には誰にも会わなかった。布をメインに使い、ウェディングドレスをモチーフに父親との辛い葛藤を紡いでいく作品やら、大広間の畳を何十畳も持ち上げる作品やら、座敷がずらっと連なる畳廊下を通り、作品が一部屋一部屋展示してあるのを覗き込む趣向であったり、小さな暗いバーに音楽を流しVRで別の世界を見せるものだったり、いやもう何というか、作品を鑑賞するというより、何より怖い!誰もいない豪華ホテルの暗い寿司カウンターに光るネオンサイン、見渡せない奥の部屋からはついたり消えたりする光が漏れてくる。怖い、怖いよ!また、急勾配のドーム天井を持つ卵型浴場は水が抜かれ、インスタレーション作品が雑多な感じで幾つも置かれているのをシャワーブースが並んでいる所を抜けて見にいったり。誰にも遭遇しないし廃墟感ハンパなし。声が流れる音響効果を使う作品も幾つかあり、人の気配のない廊下の角から喋り声がもそもそもそもそ聞こえてたり、怖い、怖いよ!

昔は豪華ホテルでならしたが今は全館が賑わうことはなくて、暗い部屋が並ぶあたりに何やら存在していて、あぁ、確かめずにはいられないこのドキドキ。連想したのは「シャイニング」のオーバールックホテル。いろんな想念が襖の隙間から「お今晩は!」

ま、そんなこんなで楽しませてもらったホテル川久。建物を見るだけでもお腹いっぱいになれる。もちろん美味しいお食事もお腹いっぱいいただきました。建物好きには一回は行ってほしいが、2度目はないかな。